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「てんきや」気象予報士への道

#15: 天気予報を検証する

コンピュータシミュレーションによる数値予報の発達や気象観測網の充実によって、一昔前に比べると天気予報が外れることは少なくなったような気もしますが、「気がする」では本当に当たるようになったのかよく分かりません。というわけで、天気予報が当たったかどうかを検証する方法を紹介します。

気象庁は、「降水の有無」と「最高・最低気温の誤差」について天気予報の検証結果を毎月公表しています。開いてみると似たような言葉と数字の羅列が表示されますが、この数字が天気予報が当たったか外れたかを表しています。

降水の有無

「晴れるって言ってたのに雨に降られた」とか「天気予報見て傘持って出かけたのに雨は降らずに傘忘れてきた」とかは非常に腹立たしいものですが、このような雨(または雪)の予報が当たったか外れたかの検証です。

天気予報では「曇一時雨」「晴のち曇」等々発表されますが、降水の有無の検証では予報を「雨が降る」と「雨が降らない」の2つに分けて考えます。このとき、天気予報と実際の天気の関係は次の4つに分類できます。
A. 予報は「降る」、実際には「降った」
B. 予報は「降らない」、実際には「降った」 ←見逃し
C. 予報は「降る」、実際には「降らなかった」 ←空振り
D. 予報は「降らない」、実際には「降らなかった」
上記のうち、ADは予報が的中、BCは予報が外れている、というのは分かると思います。

的中率というのは、その名のとおり「予報が的中した確率」なので、
(A+D)÷(A+B+C+D)
で計算できます。

見逃し率というのは、「晴れるって言っていたのに雨にふられた」の確率なので、
(B)÷(A+B+C+D)
で計算できます。

空振り率というのは、逆に「天気予報見て傘持って出かけたのに雨は降らずに傘忘れてきた」の確率なので(いや傘は忘れてこなくていいのですが)
(C)÷(A+B+C+D)
で計算できます。見逃し率と空振り率を足すと「予報が外れた確率」になります。

捕捉率と一致率は上の3つに比べるとちょっとイメージがつかみづらいのですが、捕捉率は「雨が降ったうちで正しく予報していた確率」、一致率は「雨が降ると予報したうちで実際に雨が降った確率」で、それぞれ
(A)÷(A+B)←捕捉率
(A)÷(A+C)←一致率
で計算できます。

このほかにスレットスコアというのもあります。これは大雨など滅多に発生しない事象(Dの確率が大きい事象)に対する予報を評価するときに的中率の代わりに用いるもので、
(A)÷(A+B+C)
で計算できます。

以上、いろいろと説明しましたが、式を暗記しようと思うと訳分からなくなってしまうので、それぞれの確率の意味を理解してそこから式を導き出すようにすると良いでしょう。

補足その1。
実際の検証では、例えば「香川県の天気は雨」という予報を検証する場合、香川県内の7ヶ所の観測所のうち6ヶ所で雨が降ったとすると、A=6, B=1となるので、的中率は6÷(6+1) ≈ 0.8571 で、85.7%となります。また、ここでいう「雨が降った」とは、1mm以上の降水を観測した場合をいいます。
補足その2。
津波警報など人命に関わるような予報の場合、見逃しがあると大きな問題となってしまいます。その一方で、空振り率が高くなると「オオカミと少年」になってしまい警報の意味をなさなくなってしまうという、非常に悩ましいところがあります。

最高・最低気温の誤差

降水の有無は足し算と割り算だけなので割とわかりやすいのですが、こちらは式も計算も少々面倒だったりします。まあ実際にやっていることは大したことないのですが。

ある日の最高気温の予想が13.2℃で実際の最高気温が13.4℃だったとすると、誤差は-0.2℃となります。このような誤差のデータ1ヶ月間なり1年間なりの期間分集めて平均を取るわけですが、この平均の取り方に2通りあってそれぞれ意味合いが違っています。

平均誤差(バイアスとも呼ばれる)は、いわゆる平均です。n個のデータについて平均誤差を求めると、
(E1+E2++En)÷(n)
で計算できます。

二乗平均平方根誤差は、英語名(Root Mean Square Error)の頭文字を取ってRMSEとも呼ばれます。これは、
(√E1²+E2²++En²)÷(n)
で計算できます。

予想 実際
10℃ 13℃
13℃ 14℃
14℃ 10℃
この2つがどう違うかは、実際に計算してみると分かりやすくなります。右表の3つのデータについて平均誤差とRMSEを計算すると、それぞれの予報の誤差 E1, E2, E3 はそれぞれ
E1 = 10 - 13 = -3
E2 = 13 - 14 = -1
E3 = 13 - 10 = 4
となるので、
平均誤差:((-3)+(-1)+(4))÷3 = 0
RMSE:(√(-3)² +(-1)² +(4)²)÷3 = (√9 + 1 + 16)÷3 ≈ 1.7
となります。予報と実際の気温に差があるのに平均誤差が0というのはいかにも奇妙ですが、平均誤差というのは予報の偏りをあらわす指標で、例えば平均誤差がプラスであれば全体的に気温を高めに予報してしまっている、という意味を持ちます。これに対してRMSEは予報の精度をあらわす指標で、値が0に近いほど正確で精度の高い予報であるといえます。

さて、予報の的中率と誤差について計算方法がわかったところで、実際のところ時代とともに天気予報は当たるようになったのでしょうか? 気象庁のホームページでは予報精度の変遷が公開されています。グラフを見ると、年によるばらつきはあるものの全体的に見ると年を追うごとに的中率は高く、予報誤差は低くなっているようです(ここでいう「気温の予報誤差」はRMSEのことです)。とはいえ現在でも10回に1回は雨の予報が外れているわけで、やはり天気予報は簡単ではないのです。


(2003/12/30)
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